池田 巧
佐賀よろず支援拠点、コーディネーターの池田巧です。
前回のブログでは、金融業界の人手不足感などとともに、「資金使途」、「必要金額」、「資金効果」などにおいて多くの金融マンが経験したことのある『人が育つコトバ』をご紹介しました。
このブログでは、中小企業支援に真摯に取り組む金融マンが、日常の仕事の場で頻出する『人が育つコトバ』を企業経営者の目線でも捉えて掲載します。
(注)本ブログの内容は、私が所属する(または過去に所属していた)支援機関の見解や方針を示すものではありませんので、ご理解のうえ、ご一読いただけますようお願いいたします。
金融業界の人手不足感等とともに、「資金使途」、「必要金額」、「資金効果」等における多くの金融マンが経験したことのある『人が育つコトバ』をご紹介しました。このブログでは、中小企業支援に真摯に取り組む金融マンが、日常の仕事の場で頻出の『人が育つコトバ』を企業経営者の目線でも捉えて掲載します。
(注)当職の所属する(した)支援機関の見解や方針を示すものではありませんので、ご理解のうえ、一読いただけますことをお願いいたします。
今も昔も時は金なり(Time is money)
「コスパ」は知っているけど、「タイパ」って何のこと? 私のまわりでも、Z世代のことだとか、世代間ギャップだということで片づける(話を終わらせる)やりとりを耳にすることがあります。また、「倍速視聴」や「倍速で生きる若者」といった記事などを目にすることが増えています。
「コスパ(コストパフォーマンス)」が「費用対効果」を意味するのに対して、「タイパ(タイムパフォーマンス)」は「時間対効果」を意味する表現です。「タイパ」はZ世代で広がる新語(すでに新語ではないかもしれませんが)であり、有限な時間を有効活用するという意味では、ビジネスの世界でも重要な考え方になります。
「タイパ重視」と聞くと、少し冷たいような印象を受けるかもしれませんが、無駄な時間を省き、処理を効率化することで、その分の空いた時間を好きなことや付加価値を生む時間に投じたいという考え方です。これは若者の意識の高さを感じさせます。また、口コミやレビューのチェックに余念がなく、大量の情報を短時間で収集し、処理しているともいえます。まさに、社会や技術の急速な変化に対して柔軟に対応し、素早く新しいスキルを習得しているといえます。
「コスパ(費用対効果)」と「タイパ(時間対効果)」を掛け合わせれば、「時は金なり」ということわざで表現でき、今も昔も「Time is money」といえます。
「人に育てられ、人を育てるコトバ」
金融機関が融資を行う理由や謝絶(融資見送り)する理由は様々です。例えば、既に相当程度の融資残高があり、これ以上新たな与信(貸増)ができない場合や、対象企業の既存事業の収益改善見通しがない場合、メイン行あるいはサブ行の融資スタンスが変わった(シビアになっている)など、多様な理由が考えられます。
融資見送りの判断を下す場合には、「当行がダメでも、他の方策(代替策)を考えてもらう時間的余裕を残すべき」という考え方があります。つまり、融資見送りの決断を下すまでに1か月以上も金融機関側で握って追加の書類等を求めないような対応は考え難いといえます。その時間経過を受けて倒産となれば、金融機関側にも説明責任を果たしたのかという批判が生じるおそれもあります。
まさに「時は金なり」といえ、断る融資が見込まれる場合は、そのことを早く経営者に伝えることが求められます。この融資見送りの説明内容は、金融マンの知識や経験がものをいうといっても過言ではありません。「今回は融資が難しい内部判断となりました」、「信用保証協会さんから承認されませんでした」、「信用保証協会さんがダメだと言っています」といった説明を受けて納得できないまま融資見送りの判断を持ち帰る経営者も多いです。
誤解を恐れずに申し上げますが、そもそも相手が中小企業であれば、融資見送りの理由について批判しようと思えばいくらでも批判できます。自己資本が脆弱で安全性に欠ける、薄利多売が続き利益体質に転換できていない、外注依存から脱却できていない、大口取引先との取引解消で売上が大幅に減少する見込みがある、社長がワンマンで内部に人材が育っていないなど、中小企業ならば当たり前といってもよい問題点は大なり小なり存在します。
できる金融マンは、取引先が抱えるマイナス要因をなんとかカバーし、強みを見つけ出し、あらゆるアレンジ方法を検討して、なんとか融資に結びつけられないかと動きます。つまり、融資見送りの場合は、適時的確な要因を説明し、「担保設定のあるB銀行に相談してはどうですか」、「既往借入金を借換え融資で一本化し、毎月の返済額を軽減してはどうですか」、「協調融資の枠組みで再考できないか」といった活路を一緒に考えてもらい、実現可能性のある代案まで提示してもらえるかどうかは、企業経営者にとって大きな助言となります。
また、補助金や官民ファンド等の情報提供をはじめ、その補助金等を手掛ける支援機関に繋いでもらえる担当者の引き出し(経験)やネットワークの多さは、金融マンによって異なります。
人が育つ瞬間
金融マンに限らず、経験の浅いビジネスマンは、仕事そのものの処理の仕方が分からなかったり、知識や方法を知っていても要領よく処理できないことがあります。また、手持ちの仕事の優先順位をつけることに苦慮しているケースや、経験のない仕事の進め方に悩み、自分の段階で止めてしまい、時間だけが過ぎている場合もあります。
『断る融資ほど早く対応しろ!』という暗黙のルール
この言葉の意味まで理解したうえで企業と向き合っている金融マンは多いです。企業側からすれば、融資相談をした際に早い段階で融資見送りの回答がなされた場合、まず、
①否決の要因や理由を明確にしてください。
②そのうえで代替案や活路がないかも助言を求めてください。
早い回答には、早く回答する理由があるはずです。
金融マンからすれば、断る融資の対応力を高めることが、自分が成長できる糧になるといえます。多様な事例を経験し、次に活かすことが必要です。
「断られた融資」をひっくり返す(逆転)は、至難?
融資金額や融資後残高(既往借入金の残高も含む)等に応じて、融資稟議書(金融機関の内部で承認する事務手続きの書類)の最終承認の部署や役職、権限規定が異なります。担当の金融マンが1つ上の先輩や役席者に相談したうえで「貸せません」という判断を下す場合もあれば、さらに上席まで融資稟議書が回付され、上位の役職者や融資部等の金融機関の本部で融資見送りの判断がなされる場合もあります。
融資見送りが下された場合、「今回は、追加資料を提出しても覆らないと思います」と説明する担当者もいます。融資見送りが組織全体として決定事項となり、その判断をひっくり返すことが至難 である可能性があります。
私が、ある融資相談を受けた際、
その経営者から「どうせ、何の書類を準備しても金融機関は貸してくれないだろう!」と言われました。
私は、「そのように考えるなら、現段階である書類で融資相談を済ませますか?」「今ある書類で金融機関に申し込みますか?」「具体的ではない書類で融資が否決されても、社長は不本意ではないですか?」とお伝えしました。
ビジネスである以上、事業戦略や経営資源等の内外環境を整理し、根拠や論拠を積み上げたロジカルな説明が求められることはいうまでもありません。「社長の考えや経営方針を、ロジカルに見える化した書類を準備して、金融機関に融資申込みするほかはありません」とお伝えし、社長からは、その書類作成に助言を求めたいという前向きな意見や姿勢を得ることができました。
つまり、融資判断に係る準備不足のまま拙速な融資申込みをすることは避けた方がよいと考えます。本当に実現したい事業やプロジェクトこそ、入念に、万全を期して準備することをお勧めします。金融機関から「あの程度の書類しか準備できない」、「融資の取り上げ材料がない」などといった不本意な返答やイメージを持たれないような知策が必要です。
さいごに
経営者の傍には、顧問税理士や金融マンが存在します。他方、立場や組織カルチャーによって考え方も異なります。「倍速で生きる若者」という現象は
①技術の進歩と情報の速さ(情報量の多さ)
②多忙なライフスタイル・多様なライフスタイル
③早熟なキャリア形成
④デジタルメディアの消費習慣
⑤変化への適応力
といった要因によって生み出されたものです。
少子高齢化や人手不足といった社会的課題を背景に、私たちは多くのことを短時間で成し遂げ、常にスピードと効率を追求しています。同時にストレスや疲労を感じることも少なくありません。
現在は、ワンストップで完結的に解決できる時代ではないことも明らかです。多様性が当たり前の時代、予測困難な時代といわれ、誰に聞いても、誰に相談しても迷いや悩みが快晴のように晴れることはありません。しかし、そもそも論に立ち返って、思考を整理する(体系的に整理する)ことも大切です。今、さまざまなメディアでパーパス経営が必要といわれるのも、このような時代を背景にしていると私は考えます。
経営者も金融マンも働く人にとって、考える時間は決して無駄ではありません。それは付加価値を生むための有益な時間にするべきです。無論、思考の上で「案ずるより産むが易し」も時には必要です。
佐賀県よろず支援拠点では、事業者の皆さまからの様々な悩みや相談に対応しています。企業ごとに悩みも課題も十人十色です。多様な課題に応じた専門家(コーディネーター)がいて、経営者とともに汗をかきながら考えます。無料で何度でもご相談いただけますので、お悩みの方はぜひご利用ください。